闇の両替商が中国元と朝鮮ウォンを交換している様子。北部地域で2013年に撮影(アジアプレス)

 

根強い政府不信と警戒
しかし、カード利用を警戒する住民も多い。

茂山(ムサン)郡に住む取材協力者は、昨年12月末に周囲の利用度について調べ、次のように伝えてきた。

「カードを一切使わない人も多い。特に大きなお金を動かす人たちだ。大きな商売や外貨両替、貿易商売をしている商人たちは、銀行を通して送金すると、誰とどれぐらいの金額の取引をしているか当局に把握されてしまう。銀行には、政府の検閲が頻繁に入るからだ。だから多くの商売人たちは、銀行カードではなく、これまで通り個人がやっている地下送金を使い続けるだろう。国営企業間の取引は銀行を介しているようだ」
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北朝鮮当局が電子カードの普及を図るのは、国営金融を正常化することで民間資金を吸収することと、不透明な資金流動を制御することが目的だと思われる。

北朝鮮の公的金融システムは、2000年頃から通貨ウォンが下落を続けたことと、預金しても自由に下ろせないため国民の信頼を失った。さらに、2009年末に突然実施した通貨切り替え(新通貨に100対1で切り替えた)が大失敗に終わり、今も一般住民の信用は失墜したままだ。

政権に裏切られ続けた北朝鮮の住民たちが、新たな電子決済システムを安心して利用するまでに、まだ相当な時間がかかるものと思われる。

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