◆遅れるモスル再建

政府はモスル再建委員会を設置し、さまざまなプロジェクトの検討を始めている。先日、私は先生たちに改めて連絡を取った。

モスル大学の教員に復帰したサアド氏は、「行政機関の怠慢と腐敗で復興は遅れている」と嘆く。彼は現在、学生に数学を教える。IS支配前と比べ、全体の学力が下がったと感じている。

モスルの小学校についてISが伝えた写真。ISは小学校での女子教育そのものは否定しなかったものの、女子高等教育は大幅に改変し、制限。実質的には、ISの過激思想教育を恐れた親の多くが、子どもを学校へ通わせなかった。(2015年・モスル・IS写真)

 


ISが学校で配布した教科書。IS思想が色濃く反映されている。写真はアンバルで配布されたもの。IS支配下の地域地で統一した教科書となっていた。(2015年・アンバル・IS写真)

◆過激組織 阻むために教育が大切

フセイン政権崩壊後、イラクではシーア派のマリキ政権が宗派色を強めた。スンニ派のモスル市民は、シーア派の影響力が強い警察や治安機関から不当逮捕などの扱いを受けてきた。政府に憤るスンニ派住民に加え、貧しい階層、教育を受ける機会のなかった若者を取り込む形でISは勢力を拡大した。

多大な犠牲を払ってようやくISが去り、イラク人が結束して復興を進めなければいけない時に、怠慢や腐敗で、学校に行けない子どもたちが置き去りにされている。イラクでは今も潜伏するISが爆弾攻撃や暗殺を続ける。

「教育が途絶えると、過激組織に利用される土壌を生んでしまう。心配でならない」

スマア先生はそう伝えてきた。

ISが中学・高校の学校教員向けに作成した子どもの身体教練に関する指導要領。腕立て伏せなど体力育成の詳細な指導のほかに、銃器についての説明も出てくる。教員もIS式イスラム法解釈の研修が課せられた。(IS出版物より)

 

2014年にISが制圧すると、独自に解釈したイスラム法を布告し、「統治」を開始した。(2016年・IS映像)

 

イラク北部のモスルはバグダッドに次ぎ、バスラと並ぶ大都市。IS支配下ではキリスト教会や遺跡の破壊もあいついだ。(地図作成:アジアプレス)

 

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2021年8月17日付記事に加筆修正したものです)

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