デモ隊への狙撃場として政府系民兵が使うのを断ったために放火された民家。住民6名が死亡したという。ニカラグアのマナグア市で2018年11月撮影。

◆2018年の混乱と政府の腐敗

レイバ氏は、ニカラグアで反政府活動が活発になったことについて「コップの水が溢れたようなもの」と説明する。

弁護士として労働問題に取り組んできレイバ氏は、2007年にダニエル・オルテガ氏が大統領に復帰して以降、政府に批判的な人物が不当に職場を解雇される現場を目の当たりにしてきた。

こうした問題に対して司法は機能しなかった。政府に反対する人々を排除し、社会秩序を蔑ろにしてきた政府への不満の蓄積が、2018年、「コップの水が溢れた」ように爆発した。

「ニカラグアでは政府に近い人物が優遇され、ビジネスでも成功を収めている。『社会主義者』が億万長者になった。今の政府の本質をよく表している」とレイバ氏は指摘する。

ANPDHは、政権与党サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)が反革命勢力と内戦を繰り広げていた1986年、野党勢力により米国で誕生した。米政府系団体からの資金提供を受け、政府軍と対峙した反革命ゲリラ「コントラ」との関係が指摘されている。90年代の保守政権時代には、軍内部に残るFSLN勢力の動きや、内戦時代のFSLNによる人権侵害を調査し告発してきた。

オルテガ大統領は2018年の反政府抗議活動を、米国など資本主義国によるクーデターだと位置付けている。この「米国の関与」についてアルバロ氏に質問すると、「我々は誰の支援も受けていない」とし、「オルテガは何十年も前からそのレトリックで自分への追求を交わそうとしている。彼の独裁に国民は疲れ切っている」と声を荒げた。

コスタリカへの難民流入は、新型コロナ感染拡大の影響から2020年は移動が強く制限されたものの、昨年は、大統領選挙に向けた反政府勢力への弾圧が激化したことから再び増加に転じている。(続く 6へ

ビザや仕事などの難民の相談に応じるANPDHのスタッフ。大部分の難民は個人で国境を越えるため、情報が届かず孤立してしまう場合が多いという。コスタリカ・サンホセ市で2019年8月撮影。

 

ニカラグアの40年
左翼ゲリラ・サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)を率いたオルテガ氏は1979年、ソモサ一族による独裁政権を倒し革命を成功させ、84年、大統領に初当選。90年の選挙で敗北するが、06年に大統領に復帰すると、14年、大統領の再選禁止規定を撤廃し、17年には夫人を副大統領にした。18年の反政府デモへの武力鎮圧では300人以上が死亡するなど、強権的な独裁政治が批判される。21年の大統領選で勝利し、4期連続5回目の大統領に就任した。

柴田大輔(しばた だいすけ)
フォトジャーナリスト、フリーランスとして活動。 1980年茨城県出身。2006年よりニカラグアなど、ラテンアメリカの取材をはじめる。コロンビアにおける紛争、麻薬、和平プロセスを継続取材。国内では茨城を拠点に、土地と人の関係、障害福祉等をテーマに取材している。

 

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