◆不適正対応を“隠ぺい”か

このようにいかにも問題ない、と説明されると石綿調査について知識のない記者にはどうしようもないところがある。その結果、まんまとだまされてしまうわけだ。だが、実際には市の石綿調査に関連して、記者レクや発表資料で説明せず“隠ぺい”したことが3つあった。 まず市が不適正な試料採取をしていたが、その事実を記者レクや発表で“隠して”いたことだ。 厚生労働省の分析マニュアルによれば、吹き付け材の場合「石綿含有のばらつきがかなり大きい」とされ、「施工年によっては、石綿含有のものと無石綿のものとが混在している時期があったり、大規模な施工現場では、二以上の施工業者が吹付け作業を行い、片方の業者が無石綿の吹付け材で施工し、もう一方の業者は石綿含有の吹付け材で施工したりする場合がある」という。また「最終仕上げ工程で、セメントスラリーを表層に散布する場合や表面化粧する場合がある」ことから、「吹付け材施工表層から下地まで必ず貫通しての試料の採取」するよう求めている。 市は「下地までの貫通採取」がマニュアルで位置づけられたのは2014年度なので適切な採取ができていなかったのは仕方なかったと主張する。 しかし1996年3月の旧労働省通知でも「吹付け材が不均一になっている可能性が極めて高く、石綿が含有されている吹付け材でも試料の採取方法によっては、石綿が含有されていないと判定される場合がある」と「試料採取に当たり留意すべき事項」として説明されている。しかも「1箇所における試料の採取量は、9cm3(例:3cm×3cm×1cm)以上とすること」と「以上」と必要があれば変更することを前提にした記載となっている。 また石綿問題が社会問題化した2005年7月以降、貫通採取していないため吹き付け材が二重になっているのを見落とす事例が相次いだ。しばしば使われた有名な施工方法であり、本来考慮するのは当然のはずだが、そうした対応は講じられなかった。 ただし市が主張するように(1)の貫通採取が国のマニュアルに記載されたのが2014年度なのは事実。不適切な試料採取が全面的に市の責任とまでは言い難い。 だが(3)は違う。 試料の採取箇所数が少ないとの(3)は、吹き付け材の面積が3000平方メートルを超える場合、600平方メートルごとに3カ所ずつ試料採取して分析するよう国が求めているが、それに従っていなかったことを指す。 じつはこの採取方法は1996年3月の旧労働省通知で定められており、翌1997年の旧環境庁マニュアルなど関連資料で毎回説明されていることだ。つまり、市は10年前から決まっている当たり前の採取方法を無視したことになる。あたかも仕方がないかのように記載されているがとんでもない。 市は(1)について、わざわざマニュアルの記載時期まで言及し、自己正当化した。ところが(3)については旧労働省通知やマニュアルに反した不適正な採取方法だったことを認識していたにもかかわらず、あえて記者レクで説明せず、発表資料からも除外していた。“隠ぺい”を図ったといわれても仕方ないだろう。 筆者の取材に対し、市は不適切な対応だったことを認めた。

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