◆専門家の見解すら勝手に流用

さらに空気1リットル当たり0.51本の青石綿飛散について、「健康面での経過観察や健康管理等の対応を今後とる必要がないと判断できる健康リスクのレベル」と「専門家の見解」が示されたとの説明も事実ではない。

4月17日の報道発表で、府は「専門家の見解」を「2018年の検証結果報告書」との記載にこっそり修正していた。

この報告書は、同校で2012年に起きた石綿飛散事故について検証し、結論として、当時「生徒および教職員が受けたアスベスト曝露は、健康面での経過観察や健康管理等の対応を今後とる必要はないと判断できる健康リスクのレベル」と評価したもの。当然ながら、今回の石綿飛散について検証・評価したものではない。

筆者が府に確認すると、今回の石綿飛散について専門家に依頼して評価してもらったのではなく、報告書の結論を府が勝手に“コピペ”し、「専門家の見解」としてでっち上げていたことを認めた。

それでも府教育庁は、「2018年の報告書は専門家がまとめたものですから、専門家の見解であることは間違いない」(同)と強弁した。

2012年の飛散事故は、不適正工事からわずか3週間だけが対象。今回のように約2~3年にわたる可能性のある飛散ではない。

そもそも石綿の健康リスクは「濃度×時間」で評価する(厳密には石綿の種類も)。高濃度でも短時間なら中皮腫などの発症リスクは低いし、低濃度であっても長期間におよべば発症リスクは高くなる。そのことは報告書にも明記されていることだ。今回は実際に吸ってしまった濃度や時間が明らかでない以上、この報告書の結論を勝手に引用してよいわけがない。

ところが府にとって都合の良い説明のために、過去の報告書の結論が根拠なく流用された。

実際に今回の石綿飛散で検証がされていない以上、もはや専門家の見解の“ねつ造”引用ではないか。

◆証拠「隠滅」を許すのか

前出の保護者に府による安全の根拠がでっち上げだったことを説明すると、驚きつつ、「府に騙されていたってことですよね」とため息をついた。

説明会では、納得できない保護者が「1つでも安心できる言葉をいただかないと帰れない」と府に迫った。しかし府は、「(石綿のばく露があっても健康管理などの)保障が必要な数値ではない」と実際には根拠などない説明を2時間続けたという。

2018年報告書で定められた対応がすべて放置された問題について、「府教育庁は『今後は同じことがないようにします。今後はきちんと対応するので大丈夫』というのですが信じられません。『今日これだけいろいろいっても、どうせまた忘れるんですよね』と反論したら、『同じことは繰り返さないようにする』といってはいましたが、以前もそうだったはずですよね」と不信感をあらわにした。

また、「本件を教訓とし風化させない」対策として、教育・研修や管理の徹底なども報告書では位置づけていた。

高校側によれば、今年も2月に過去の飛散事故について研修していたというのだが、石綿飛散時の対応は内容に含まれていなかったという。専門家による協議会を設置して、5年間、億単位の費用を投じて検証して再発防止の徹底を誓ったにもかかわらず、わずか4年で忘れ去った。その程度の教訓だったわけだ。今度はいったい何年持つのか。単純な引き継ぎの話などではない。

事実、府教育庁は今回の石綿飛散について、「大した数値ではない」などと繰り返し、その場しのぎのウソだらけの説明で保護者をだました。そうしてごまかしてしまえば、府には「過去の実績」もある以上、今回の問題などもっと早く忘れ去るに違いない。

さらに問題なのは、府が夏休みに吹き付け石綿の除去工事を検討していることだ。また、この間の測定がもっとも数値が低くなる、誰も居ないようにして窓なども閉め切った状態で実施する「静穏測定」だったことから、生徒らが活動している状況とは異なるとの問題についても保護者が指摘している。

府教育庁によれば、筆者による報告書の対処を無視していたとの指摘した翌日の4月3日、(筆者への回答はないまま)あわてて立ち入り制限し、同6日に専門業者による清掃を実施。その後、「すでに(模擬的な測定を)実施済み」(施設財務課)と筆者の取材に説明。しかし現状は府の“素人”対応のままであり、その内容や妥当性は不明だ。

府教育庁は、「報告書の対応ができていなかったのは事実ですので、受け止めるところは受け止めます。誤魔化そうなどということはないとご理解いただけたらと思います」と回答した。

2012年の事故後、保護者の要望により設置された協議会で専門家として委員を務め、府が今回軒並み無視した報告書の再発防止の記載にもかかわったNPO(特定非営利活動法人)、中皮腫・じん肺・アスベストセンターの永倉冬史氏は、「青石綿の危険性を甘く考えすぎではないか。(兵庫県尼崎市の)クボタ旧工場では、屋外ばく露でも多くの住民が(中皮腫などを)発症しているわけです。そこから考えたら、青石綿の長期、低濃度ばく露は危ない。(長期ばく露の可能性があるため)空気1リットルあたり0.51本が安全とはとても言い切れないと思います」と府の対応を批判する。

尼崎市のクボタ旧工場周辺の被害は、すでに400人を超える。また、吹き付け石綿のある部屋に「居ただけ」の被害も実際に発生している。厚生労働省の公表資料を確認すると、石綿を扱う仕事をしていないのに、吹き付け石綿のある部屋に居ただけで、中皮腫を発症して労災認定を受けた人は100人超におよぶ。今回と同様に吹き付け石綿が放置された神奈川県藤沢市の保育園で、元園児が卵巣がんを発症。業務上の石綿ばく露がなかったことから、園で石綿を吸ったことが原因との可能性を「否定しきれない」として救済金を支払った事例も出始めている。

現在の生徒からすれば、早く石綿が除去されるほうが望ましいのは間違いない。だからといって、この間の生徒の石綿ばく露やわずか4年で引き継がれなくなる原因について、専門家による検証すらなしに強引に工事を進めるなど許されない。まさしく前回の報告書のいう教訓を無視した対応というほかない。あるいは当事者や保護者の気持ちなど踏みにじればよいとの“教訓”なのか。

「このままだと、危険な青石綿にばく露した子どもたちのことがなかったことにされてしまう。(石綿を)除去したし、(この間の調査で)安全でしたよということになって全部終わってしまいます。府は証拠隠滅をしようとしています。もう心が折れそうです」(前出・保護者)

加害者の府教育庁が被害者の生徒や保護者らをだまして「証拠隠滅」を強行するなどあってはならない。

【関連写真】大阪府立金岡高校では2016年にも校舎内に吹き付けアスベストが散乱していた

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