
◆ウクライナ軍内のLGBTの現在地
「男らしさ」を求める軍隊のなかで、ゲイの兵士はどんな状況にあるのか。自身もゲイであることを公表する現役の将校にきいた。戦時下のウクライナの性的少数者を見つめるシリーズ、第4回。(敬称略・取材・写真:玉本英子・アジアプレス)

◆「男らしさ」求める軍隊のなかで
イワンは37歳。ゲイの兵士だ。厚い胸板のがっちりした体格で、背筋をピシっと伸ばし、がっちりと握手してくれた。士官学校を出て軍歴を重ねてきた。現在は将校として防空任務についている。
どの国でも、一般に軍隊は「男らしさ」が求められる。そうしたなか、性的少数者はどう見られているのだろうか。それが彼と会ったきっかけだった。
イワンが性自認をしたのは、7年前という。
「以前、結婚していましたが、妻とは離婚したんです。それで自身の性的なアイデンティティを意識するようになりました。それで性的少数者について関心を持ち始めました」

ソ連軍時代は、閉鎖的な組織風土のなかで、上下関係や勤続年数を背景にした虐待行為、いじめ、暴力を伴うしごきがあった。「デドフシチナ」と呼ばれる。それがロシア軍や、ウクライナを含む旧ソ連圏の軍組織内部でも残った。「ピドラス」(オカマ、ホモ野郎というニュアンスの呼び方)という人格否定の言葉もよく使われた。「男らしさ」を求める軍隊のなかで、ゲイの兵士は「軍の士気を下げる存在」「隊内の秩序と風紀を乱す」といったレッテル貼りや、嘲笑の対象ともなってきた。
イワンは、性指向ゆえに心理的に追い詰められた兵士がいると話す。
「私の友人のゲイ兵士も、差別やいじめに苦しみました。SNSのゲイの軍人たちのコミュニティではそうした経験がいくつも報告されています。ともに力を合わせるべきときに、残念なことです」

ソ連時代、男性間の性愛行為は「犯罪」として処罰の対象だった。ソ連崩壊後のウクライナでは、同性愛者は今度は正教会の保守層や極右勢力からの非難にさらされた。(2023年5月・キーウ・撮影・玉本英子)
こうした差別をなくそうと、ウクライナでは軍内部の同性愛者の権利保護を求める団体が活動してきた。そのリーダーで、軍の改革を訴えてきたゲイの元兵士のヴィクトル・ピリペンコは、正教会から「罪深い嗜好と同性愛の扇動」として非難されている。ゲイ兵士であることを示すユニコーンの記章を独自につける者もいるが、誰もがオープンにできるわけではない。
イワンは言う。
「ゲイだと知られれば、どんな仕打ちが待っているか。味方に怯える兵士がまだいるのが実情です」
◆ロシア軍の侵攻で空気が少し変わった
軍隊内の空気を変え始めたのは、ロシア軍の侵攻だったという。
「同性愛者の兵士も、ともにこの国を愛し、血を流して戦っていることが、まず社会に広く知られるようになった。軍のなかでもそうした認識が広まってきました。すべての現場というわけではないですが、かつてのような偏見は徐々に減りつつあるように感じます」


もう一つの要因として、ウクライナ軍が深刻な兵員不足に直面しているのも背景にある。多くの志願者を軍に呼び込むためには、現場の意識改革と環境改善が求められている。男性兵士だけでは足らず、最近は女性の志願兵を募集する看板も増えた。愛国心に訴えかけるだけでなく、魅力的な職場に見せる工夫がなされている。






















