演説を終えたモーイン支持の有力者がスタジアムを去るときは、暴徒の襲撃から守るため、若者が手をつないで大きな人の輪でその有力者を囲って車まで送り届ける。

「今はまだ安全だ。集会が終わって外へ出たら、気をつけた方がいい」

スタジアムの外では無数の警官が警備についていたが、「やつらはあてにできない」という。
モーイン候補の演説で集会が幕を下ろすと、観客席にいた支持者がグラウンドに降り、大騒ぎになった。かれらは手と手をつなぎ、気勢を上げる。誰かが歌い始めた歌が、いつしか大合唱に変わった。

学友よ
君は僕らと共にある
鞭が僕らを打ち据え、嗚咽と痛みがこみ上げる
黒板から僕と君の名は消されてしまった
不正と弾圧の手は残り、僕らの身には未開の荒地が広がるだけだ
僕らはみんな雑草だ
善人のままでは死んだも同然
僕と君の手でこのカーテンを引き裂かなくてはならない
僕と君以外の誰がこの痛みを癒せるというのか
学友よ

『ヤーレ・ダベスターニー』という、革命前から若者たちに歌い継がれている歌で、今は反体制を象徴する歌となっている。警官が立ち入らないこのスタジアムのなかで、かれらはいつまでも繰り返し歌い続けた。

スタジアムの外に出ると、治安部隊の兵士が警棒片手にずらっと待ち構えていた。その警棒は必ずしも暴徒襲撃に備えたものではないことがまもなく判明する。集会のあったスタジアムからまっすぐ南へ向かえばエンゲラーブ広場があり、その道は学生デモのお決まりのコースなのである。治安部隊は南へ向かう若者たちを途中の十字路でさえぎり、エンゲラーブ広場へ向わないよう左折を迫る。抵抗を示す者には容赦なく警棒が飛ぶ。そのたびに女学生が「治安部隊は味方!味方!」と声を揃える。

この日、当選の可能性が薄いといわれた保守派のモフセン・レザイ候補が立候補を辞退した。残る7人の候補はそれぞれイラン全土に散らばり、最後の演説とともに長かった選挙運動に幕を下ろした。(つづく)