私的雇用が幅を利かせる
不動産取引と並んで、北朝鮮式社会主義の秩序が大きく乱れているのが、私的な雇用、労働市場の出現だ。
もともと北朝鮮は、成人はすべて職に就く「失業のない国」であった。
しかし、国家によって配置される職場は現在ほとんど満足に稼動しておらず、大部分の国営企業は食糧配給も給与もまともに出せない有様である。

それでも、職場への出勤が強要されているのだか、それでは食べていけない。そこで、職場に一定の金額を納めて暇をもらって商売をしたり、主婦や学生が私的に労働力を売ったりする現象が生じている。
例えば、盛んに行われているのは、縫製の仕事だ。今の北朝鮮は布地をほとんど生産できなくなっており、衣類は中国から既製品を輸入するか、布地を輸入して縫製加工する。

衣類の商売人が、北朝鮮内で縫い子を組織し、布地と糸を与え、一着あたりいくらかの加工賃で縫製させるのである。
縫い子は家で縫製作業をするが、働けば働くほど収入が増えるので、家族総出で作業をしているケースも珍しくないという。
北朝鮮内部の取材パートナーが、漁村の私的雇用の様子を06年夏にビデオで取材してきたことがあった。家の中と庭に所狭しと魚網用のナイロン糸が並べられている。

家の主人は、漁業協同組合や、軍や警察が外貨稼ぎのために所有している漁船に、消耗品の漁網を卸しているのである。
この「親方」の家には、近所の主婦や中学生15人ほどが集められていた。仕入れてきた中国製のナイロンの糸を、手作業で熱心に魚網に編あげていく。
映像には網を編む12歳と14歳の女の子がにこやかに質問に答えている場面があった。

彼女たちは「一日に1100~1300ウォン稼ぐ」と答えている。
この賃金は、当時の実勢レートで50円ほど。市場で白米なら1.5キロ、トウモロコシなら3キロが買える額だ。
ちなみに中学校教員の月給が約2000~3000ウォン、国営炭鉱の労働者の月給が最高の重労働職場で1万から1万5000ウォンほどである。
女子中学生のアルバイトの方がずっと稼ぎがいいわけだ。
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