北朝鮮メディアが宣伝用に掲載した直洞炭鉱の坑内労働の様子。マスクを着け電気ドリルを使って掘進作業をしている。だが坑を支える支柱が見えない。(撮影日時不明 わが民族同士HP より)

北朝鮮メディアが宣伝用に掲載した直洞炭鉱の坑内労働の様子。マスクを着け電気ドリルを使って掘進作業をしている。だが坑を支える支柱が見えない。(撮影日時不明 わが民族同士HP より)

取材 キム・ドンチョル
監修 リ・サンボン(脱北者)
整理 石丸次郎

3  事故の多発と衛生状態

◆ 事故
ほとんど北朝鮮国外には伝わってこないが、炭鉱事故で死者が出ることはしょっちゅうだという。特に多いのが、坑の支柱の劣化で天井が崩れる落盤事故。
「最近では、直洞炭鉱で二〇一〇年の七月か八月に、支柱を立てる作業中に坑が崩れて三〜四人が生き埋めになる事故があった」
とキム記者は述べる。

また、地下深くで作業している時にポンプの故障で水が入って水死したり、発破する時に想定外の場所が崩れて閉じ込められ、空気を送ることができなくなって窒息死したりという事故も起きる。ガス中毒による死亡事故も多いという。「事故で死ぬ者が多いので炭鉱地区には後家が多い」とリ・サンボン氏は言う。

それでも安全対策が何もなかったわけではない。リ・サンボン氏はかつての炭鉱は、それなりに安全教育をやっていたとして次のように言う。
「『労働安全教養室』というのがあって、炭鉱に入るとまずここで一〇日間安全教育を受ける。作業員になると、作業服、ヘルメット、ガーゼのマスク、石けん、労働靴、長靴、キャップランプ、バッテリーが支給される。入坑するときには軍隊式の点呼があって身体検査を受ける。マッチ、タバコを持ち込む輩がいるから。ガスが充満している時に火をつけると爆発事故になるからね」。
だがそれも、時代が下ると次第になおざりにされていったようだ。

キム記者は現状を次のように言う。
「一応『労働安全員』というのがいて、作業服をきちんと着ていないとか、ライトがないとか、ベルトを着用していないというような労働安全規定をチェックする。けれど、最近では厳しくやらない。八〇年代からいいかげんになっていったと思う」。
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