◆8~9割の工事でアスベストが飛散!?
ちょっと古いが、2005年8~10月の厚生労働省の調査では、届け出のあった除去工事のうち、5.5%にアスベスト対策の法違反があった。違法まではいかないとはいえ、不適切として指導をした件数を含めると1割を超えた。2012年の環境省と厚労省による被災地の調査でも、28件のアスベスト飛散事故が報告されている。これらにしても氷山の一角でしかない。

数年前、アスベストセンター事務局長の永倉冬史氏といっしょにある優良なアスベスト除去業者の幹部から話を聞いたところ、その幹部はこう明かした。
「新聞などで報じられている飛散事故は、たまたまマスコミから騒がれただけで実際にはもっとある。これは氷山の一角であると思っています。故意か過失かを問わなければ、不適正なアスベスト除去工事の数は全体の1~2割はあると思います」
これに対し、永倉氏は次のように反論した。
「それは逆なんじゃないか。実感としては、むしろ8~9割はダメな工事だと思う」

神奈川県川崎市が抜き打ちで解体工事が計画されている現場を調べはじめたのだが、立ち入りした「約半数」でアスベスト建材の見落としが見つかっていると環境省の専門委員会で証言している。

川崎市はアスベストを1%以上含有している場合に判別できるという簡易測定器を利用して調査を実施しており、この方法だと0.1~1%未満のアスベスト建材は見落としてしまう。

川崎市もそれを承知のうえでその機器を使用しているのだが、それでもこれだけの見落としが見つかっているのである。実際には見落としはもっと多いはずだ。
石巻労働基準監督署の調査でも、事前調査がきちんとできていると回答した解体業者は6割に満たないという。自己申告ですらこれである。

約半数でアスベスト建材の見逃しが見つかっているという川崎市の証言とあわせて考慮すれば、永倉氏の「8~9割の工事は不適正」との見方は相当に実態を反映しているとはいえないだろうか。

それほど頻繁にアスベスト飛散事故は起こっている。ただそれを知ることが容易ではないだけだ。

◆「全面禁止」でも続く違法使用
そして(3)のアスベストを新規使用する問題である。
日本ではアスベストが重量比0.1%以上含有する製品を新たに製造、輸入、譲渡、使用することは、一部の代替困難な製品を除いて2006年9月に「原則禁止」された。ガスケットやパッキンなど一部例外とされた製品についても、2011年3月には製造などが禁止された。

これによって、日本ではアスベストを0.1%以上含有する製品の新規使用は「全面禁止」となった。よって、一応は(3)の新規使用は心配しなくてよい。「一応」としたのは、実際には新規使用がゼロではないからだ。たしかに法的にはアスベストを0.1%以上含有する製品の使用などは「全面禁止」された。しかし、法違反というのはつねに起こりうる。

2006年9月の「原則禁止」直後に電子部品メーカー大手「京セラ」がセラミック製品に使用したタルクに基準を超えるアスベストが含まれていたことが労働基準監督署の調査で見つかり、労働安全衛生法違反(有害物における製造などの禁止)として指導されている。

しかもこのケースでは、同社の事業部長らがアスベスト含有を知りながら使用した疑いがあるとして、2007年3月に京セラなど3社と4人が書類送検されたことが報じられている。

京セラのような大手メーカーですら、このありさまである。めったに立件などしない労働局が書類送検までしたのは、「原則禁止」直後に、大企業が違法性を知りながらアスベストを使用したという悪質さに、「見せしめ」としてなんらかの措置をせざるを得なかったのだろう。

その後も、違法使用は続く。たとえば中国から輸入された農業機械に使用されていたパッキンや、輸入されたオートバイ用のブレーキパッドなどにアスベストが使用されていた事例が発覚している。また学校で理科の実験などで使う、ビーカーなどを載せてアルコールランプで熱したりするセラミック付き金網にアスベストが混入していたことも明らかになっている。これなど直接子どもがアスベストに曝露することになりかねず、深刻である。

こうした問題はアスベスト禁止国で共通する課題だが、日本独特の問題もある。それはリサイクル(再利用)である。

すでにアスベストの新規使用は「全面禁止」されており、リサイクルもあり得ないはずである。ところが、解体時などにきちんと対策されなかったアスベスト建材がコンクリートがらなどといっしょにリサイクル施設に持ち込まれ、そこで破砕されて、再生砂利や路盤材という「製品」になる。それらは販売されて、道路の路盤材や砂利の代用品としてリサイクルされる。

そうした現場も多数見つかっている。アスベストの新規使用は「全面禁止」されたはずだが、法違反が相次いでおり、いまだに課題があるというのが実情だ。
次のページへ ...

★新着記事