◆工事概要の掲示を確認!

建物に工事の掲示もあったのなら、その内容をよく見てほしい。下に示した3つの図のいずれかと同じようなものがなかっただろうか。

石綿則の届け出対象となるアスベストがある場合の掲示例 (出所:厚生労働省通知より引用)

石綿則の届け出対象となるアスベストがある場合の掲示例 (出所:厚生労働省通知より引用)

 

これらの掲示のうち、最初の2例のいずれかの掲示であれば、何らかのアスベスト建材の除去などをともなう工事であることは間違いない。

最初に示した、石綿則の届け出対象となるアスベストがある場合の掲示であれば、「労働安全衛生法第88条第4項(労働安全衛生規則第90条第5号の 2)の規定による計画の届出」あるいは「石綿障害予防規則第5条第1項の規定による作業の届出」をしたことを示す記載があるはずだ。

石綿則の届け出対象以外のアスベストがある場合の掲示例 (出所:厚生労働省通知より引用)

石綿則の届け出対象以外のアスベストがある場合の掲示例 (出所:厚生労働省通知より引用)

 

「労働安全衛生法第88条第4項(労働安全衛生規則第90条第5号の2)の規定による計画の届出」だけの記述であれば、飛散性の高い順にレベル1から3ま で定められた作業レベル(建設労働災害防止協会が2005年に発行した「建築物の解体・改修工事における石綿障害の予防」に基づく作業レベルの分類)のう ち、もっとも飛散性の高いレベル1の作業が予定されていることになる。「石綿障害予防規則第5条第1項の規定による作業の届出」の場合、レベル1、2のど ちらの可能性もある。

アスベストの使用がない場合の掲示例 (出所:厚生労働省通知より引用)

アスベストの使用がない場合の掲示例 (出所:厚生労働省通知より引用)

 

上記の最初の掲示例では「建築物等の解体等の作業に関するお知らせ」との表記の下に2つとも書かれており、レベル1もしくはレベル2の作業までしか判別できない。その場合は届け出内容と書かれた欄を見てほしい。

ここに「吹き付けアスベストの除去」「吹き付けアスベスト(レベル1)」などと工事内容が記載されていれば、もっとも飛散性の高いレベル1の工事で ある。たとえば、「石綿保温材」「パーライト保温材」などと書かれていれば、レベル2の工事である。レベル1だけでなく、レベル2の作業でも飛散性は高 い。いずれも危険な作業であり、それだけきちんとした対策が必要となる。

石綿則の届け出対象以外のアスベストがある場合の掲示例であれば、石綿則の届け出が不要な作業レベル3の工事となる。その場合は作業内容やアスベスト粉じ んの飛散防止措置の概要を示す欄に、「アスベスト含有成形板(レベル3)」「レベル3」などと記載されていることが多い。

なお、2009年4月に施行された改正石綿則により、たとえアスベスト建材がなかったとしても、事前調査の結果を労働者に掲示する義務が課せられた。よって、事前調査結果は何らかの形で掲示されるということになる。

この掲示の確認ができれば、適切なアスベストの事前調査がされていて、それがきちんと掲示に記載されている場合に限ってではあるが、工事の概要を把握することができる。よって、工事概要の掲示を確認することは重要である。

ただし、石綿則は労働安全衛生を目的としているため、〈労働者が見やすい箇所に掲示しなければならない〉とあくまで労働者向けの内容である。よって、必ず しも部外者が見られる場所に掲示されているわけではないことに注意が必要だ。さらにいえば大気汚染防止法では事前調査結果やアスベスト除去工事などの掲示 は義務づけられていない。

そのため、たとえば事業者側が石綿則に基づく掲示を部外者が入れない場所に設置することで、周辺住民にもリスクのあるアスベスト除去工事のことがまったく知らされないということも起こりうる。

説明会の開催や周辺住民への説明義務については、いまだ大気汚染防止法に位置づけられていない。明らかな制度の不備である。これについては同法の改正に先 だって2012年に開催された石綿飛散防止専門委員会でも指摘されていながら、けっきょく制度化が見送られた。改築・解体工事におけるアスベスト飛散は、 周辺住民にとって生命をおびやかす重大な健康リスクであるにもかかわらず、現状では知る権利すら確保されていない。
(つづく)

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