今や海洋汚染の元凶と指弾される福島第一の立地条件だが、それによって少なくとも陸地に降る量が緩和されたことは間違いない。しかし、それはあくまで放射性物質の落ちた先が陸地か海の違いであって、事故の規模をそれで語ることは正しくない。
また、福島第一の事故についての旧原子力安全・保安院の評価そのものが実際よりも小さく見積もられているのではないかという指摘もある。放出された総量の1万1340ペタベクレルについて、実際はそれ以上に放出されているというデータも有るからだ。欧米の研究者の(ノルウェー大気研究所の大気科学者、アンドレアス・ストールらのグループ)共同研究では、福島第一事故で放出された放射性希ガスとセシウム137の合計を1万5337ペタベクレルと推計している。
http://www.atmos-chem-phys.net/12/2313/2012/acp-12-2313-2012.html
つまり福島第一原発事故では、放出されたキセノン133とセシウム137だけでチェルノブイリの総量を上回っているのだ。
これは何を意味するのか?事故としてその深刻さを議論する際、チェルノブイリ事故と福島第一事故とには何の差も無いということだ。少なくとも、それが国際社会の認識だということは知っておく必要がある。

国際社会に不信感を増幅
実は、こうしたことが各国の日本への不信感を増幅させていることに、日本政府も東京電力も気づかない。
五輪招致のプレゼンテーションで、安倍総理が『アンダーコントロール』という言葉を使って事故が収束に向かっていることをアピールした。これが五輪招致の為の詭弁でしかなかったことは日本人の多くが知っているが、数値の誤魔化しがこうした詭弁と合わさることで、各国の専門家の中に日本が発表する数値への疑心が生まれているのだ。

韓国政府が東北地方の太平洋側でとれた魚介類の全面禁輸を決めた背景に、日韓関係の悪化を見出す論調が散見されるが、韓国政府の判断を非科学的と非難する前に、日本が発表している数値が信じられていない現状を深刻に受け止めるべき時が来ている。

福島第一から汚染水が海に漏れ出していることを突き止め、日本政府が事実関係を認める8カ月前の2012年10月に発表していた米国のウッズホール海洋学研究所のケン・ビッセラー(Ken Buesseler)教授は、
「アメリカをはじめ、世界が日本を見る目は厳しい。その中には科学的な根拠を欠いた過剰な反応としか言えないものもあるが、日本が信頼を回復するためには、かなりの努力が必要だ」
と話している。

さる9月3日、政府は汚染水の防止など福島第一事故への対応に政府が乗り出すことを発表。これまでの東京電力任せの対応を改めて、前面に出て対応する姿勢を見せた。しかし、対策の第一歩が、事故の深刻さと正面から向き合うことからしか始まらないことは間違いない。
アイ・アジアでは、センセーショナリズムとは一線を画した科学的な根拠に基づいた調査報道で、今後も福島第一事故の真実に迫っていく。
帯刀良(たてわき よい ジャーナリスト 大手放送局で20年間ドキュメンタリーなどを制作。アイ・アジアの設立に参加)
<<上 へ

★新着記事