太平洋戦争末期、1万5000人もの犠牲者を出した大阪大空襲の被災者や遺族ら19人が国に謝罪と1人当たり1100万円の損害賠償を求め た訴訟で、最高裁第一小法廷(横田尤孝裁判長)は9月11日付で原告側の上告を棄却した。これで原告の全面敗訴とした一審、二審の判決が確定した。(矢野 宏 新聞うずみ火)

大阪大空襲の被災者らが国に謝罪と損害賠償を求めた訴訟で最高裁は上告を棄却した。沈痛な表情で会見する原告団と弁護団(2014年9月 矢野宏撮影)

大阪大空襲の被災者らが国に謝罪と損害賠償を求めた訴訟で最高裁は上告を棄却した。沈痛な表情で会見する原告団と弁護団(2014年9月 矢野宏撮影)

 

◆「切実な訴えに背を向ける冷たい判決」と原告団

最高裁が上告を棄却した理由は、「違憲を言うが、実質は単なる法令違反を主張するもの又はその前提を欠くもの」という形式的な文言のみで、事実上の門前払いである。

大阪空襲訴訟の原告団と弁護団はそろって声明を発表した。

「今回の最高裁決定は「原告の切実な訴えに背を向ける冷たい判決である」とし、「少なくとも最高裁は、違憲審査権を持つ終審裁判所として明確な憲法判断をすべきなのに、憲法81条が認めた自らの職責を放棄したものと言わざるを得ない」と訴えた。

国は1952年4月に「戦傷病者戦没者遺族等援護法」を制定、翌年には「軍人恩給」を復活させるなど、旧軍人・軍属とその遺族にはこれまでに総額 50兆円もの恩給や年金を支給している。補償の対象は「未帰還者」や引揚者にも広がり、広島・長崎の被爆者、中国残留邦人、シベリア抑留者に対する援護立 法も制定された。

一方で、民間の空襲被災者には何の補償もない。国が、戦争という国の存亡にかかわる非常事態のもとでは国民は等しく耐えねばならないという「戦争損害受忍論」をとっているからだ。

「戦争損害受忍論を民間の空襲被災者だけに押し付けるのは、法の下の平等を定めた憲法14条に違反している」と、原告たちが国に対して謝罪と損害賠 償を求めて大阪地裁に集団提訴したのは2008年12月8日のこと。だが、一、二審とも、戦争被害者への補償の有無が憲法違反となることがあり得ることは 認めたものの、「補償を受けている軍人との格差が、違憲と言えるほど著しく重大で不合理とは言えない」と請求は棄却され、昨年1月16日に上告した。

最高裁の決定から5日後の16日、原告7人が記者会見にのぞみ、それぞれの思いを語った。

原告団代表世話人の安野輝子さん(75)は、
「戦後、空襲被災者は理不尽な目に遭ってきました。幼子だった私たちが何とか生き延びて、この実情を伝えなければ同じことが繰り返されると訴えてきたのに、最高裁の判断は理解できないものです」。

生まれた日に空襲に遭い、後に左足を切断した藤原まり子さん(69)は、
「待たすだけ待たして、この冷酷な判決......。足を返してほしい」と涙ながらに訴えた。

空襲で父親を亡くした森永常博さん(81)も、
「法の下の平等をうたった憲法14条は空文なのか。最高裁の良心、社会正義は一体どこへ行ったのか」と怒りをぶつけた。

弁護団の大前治弁護士は、最高裁判決を極めて不当なものと位置づけながら、
「6年間にわたる裁判闘争は無駄ではなかった」と振り返った。

「大阪高裁は、戦時中の防空法制について『当局が焼夷弾の脅威を過少に宣伝していたことがうかがわれ、これを信じた国民が危険な状況に置かれたもの と評価できる』『防火活動に従事することが国民の責務であるといった思想を植えつけるなどして、事前退去が困難な状況を作り出していたと認められる』と踏 み込んだ認定を行い、そのまま確定しました」

今後、どういう活動をするのかという質問に、安野さんは、
「全国の空襲被災者と手を携え、空襲被災者を補償する『空襲被害者援護法』の制定を国会に求めていきたい。それこそが再び戦争を起こさせない抑止力になると信じています」と語った。
【矢野宏 新聞うずみ火】

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