◆遠い全面解決への道

最高裁判決以降、原告や弁護団は国に対して、被害者に対する真摯な謝罪や、差し戻しとなった1陣原告に2陣と同じ最高裁判決の基準での賠償、原告以外の泉南地域の被害者救済を要請している。

判決以降、与野党から様々な委員会などで国に対し、救済や謝罪を求める追及が続いた結果だろう。10月21日夜、厚労省の塩崎大臣は記者会見を開いて「できるだけ早くお会いして謝罪したい」と表明。

差し戻しになった第1陣原告に対して、第2陣最高裁判決と「同等の条件による和解」を申し入れる方針を明らかにした。

弁護団が10月10日に泉南地域でアスベスト被害者の相談会を実施したところ、24人から相談があった。全員が息切れ、せきやたんがひどいといった症状を訴えているという。

石綿肺で労災認定を受けている人も1名いた。弁護団によれば、「最高裁判決基準で原告となり得る患者は15人前後」という。

国側は「訴訟上の和解の途を探る」方針で、提訴があった場合には最高裁判決に照らして対応するだけだ。相談会を訪れた被害者らは改めて提訴しなくてはならない上、就労時期などにより切り捨てられる被害者も少なからず出るだろう。これでは全面解決とは言い難い。

すでに述べたように最高裁は改めて「人命優先」の判決を下した。

一度最高裁で断罪されながらも、国が再び「人命より産業優先」を求めたこと自体が許し難いのだが、それが改めて否定された以上、国は迅速かつ真摯に泉南地域をはじめとするアスベスト被害に向き合う義務があろう。(つづく)【井部正之】

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※拙稿「最高裁が国の責任を認定 「産業より人命」を改めて確認」『日経エコロジー』日経BP社、2014年12月19日掲載を一部修正

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