アスベスト訴訟関西弁護団事務局長の位田浩弁護士によれば、「アスベスト被害をめぐる訴訟は過去の事例と係争中とを合わせると100件くらいあるはず。和解が多いのではっきりとした件数まではわかりませんが、企業側が勝訴するケースはわずかです」という。

注意を要するのは企業に求められる安全配慮義務とは、法律に従っていればいいというわけではないことだ。

「使用者はよく国が規制してないことをできるわけがないと反論します。泉南訴訟でいえば、(石綿粉じんを除去する)局所排気装置の設置は1971年 まで国が義務づけていないからできるわけないと。ですが、ホコリを吸えば何らかの病気が生じることは戦前からわかっていたわけですから、局所排気装置な り、防じんマスクの着用なりをする義務があったとの判決になるはず」(位田弁護士)

粉じんをたくさん吸うことで病気になるという科学的知見があり、局所排気装置や防じんマスクの使用でそれを回避できるという結果回避可能性が存在す るにもかかわらず、それを実施しなかった場合には責任が問われる。この場合、病名まではわからなくてもよいのだという。では企業はどうすべきなのか。

「単純に規制に従っているだけでは不十分で、法規制がなかったとしても、独自にできる限りの対策を講じるべきです」(村松弁護士)

すでにアスベスト製品の製造は禁止され、現在は建物や施設、設備に残されたアスベストの対策や廃棄物処理などにおける対策へと移った。
だが、これらの分野でも規制は遅れており、問題だらけといってよい状況にある。そうしたなかでどこまで踏み込んで独自の対策を講じることができるかが将来的な負担を減らすことにつながる。

冒頭で紹介した熊取さんらはいつ中皮腫などのアスベスト関連疾患を発症するかもしれないとの不安の中で生活している。
「労働者と住民でわけずに、健康管理の仕組みをつくって欲しい」と3人は訴える。
アスベスト被害の現状を深く見つめて、何ができるか考えて欲しい。それが熊取さんらの願いである。
こうした被害者を生み出さないため、どれだけ努力できるか。それがもまた国や企業に求められている。(おわり)【井部正之】

<大阪・泉南アスベスト訴訟を振り返る>一覧

※拙稿「最高裁判決で終わりではない 求められる最大限の安全配慮」『日経エコロジー』日経BP社、2015年1月号掲載を一部修正

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