住民の被曝は、事故直後からしばらくの間、影響を受けた地域の人々は適切な情報を与えられなかったため、避難するまでに相当の被曝をした。また、事故に対処するためにソ連(当時)各地から集められた労働者たちは、十分な装備もないまま危険な作業に従事したため極端に高い被曝を受けた。その人数は、最初の数週から数年の間で60万人以上に及ぶ。彼らは「リクビダートル(ロシア語で後始末をする人という意味)」と呼ばれるが、作業に従事した後の消息については正確に把握されていない。

ウクライナ、ベラルーシ、ロシアでは、リクビダートルの国家登録が行われた。ロシアに住む6万5905人(平均年齢35歳)を対象とした91年から98年までの追跡調査によると、その間に4995人ががんなどで死亡している。5人のリクビダートルについて91年から2001年までの様子を追ったドキュメンタリー映画『サクリファイス・リクビダートルの知られざる真実』(エマヌエラ・アンドレオリ&ヴラディーミル・チェルトコフ監督、03年、スイス)では、彼らが満足な補償もないまま命を落としていった状況が描かれている。

経済的な損失も甚大である。 10年の推計によると、ウクライナだけで直接的な損失は30Km圏内で13億8500万ドル、30Km圏外で8億4000万ドル、間接的な損失は農業・林業・水源対策で683億7000万ドル、事故炉初期の廃炉作業で280億5000万ドルとなっている。また、溶融炉心への対処では、ソ連時代に57億2300万ドル、ウクライナ独立以降では121億9400万ドルが費やされた。1ドル=100円で日本円に換算すれば、その莫大さがわかるであろう。さらに、被害者への補償は限りがなく、その人数も毎年増え続けているという。(続く)

(新聞うずみ火編集委員 高橋宏)

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