アスベスト曝露による健康リスク評価は歴史的にアスベスト濃度ではなく、ほかの繊維も含む総繊維濃度で実施されてきた。そのため、総繊維濃度の一部でしかないアスベスト濃度で比較してしまうと、健康リスクが過小評価されてしまう。つまり、市側が説明した安全率などそもそも存在しなかったということだ。

実際にシミュレーションは市側が当初主張した「5割増し」の安全率などなしに実施された。

そもそもシミュレーション実施後まで市側はアスベスト曝露による健康リスク評価が総繊維濃度で実施されてきたことすら知らなかった。委員からの宿題として過去の同様の事例を調べていたにもかかわらず、である。もし委員が総繊維濃度で実施するよう検討会で求めていなければ、過小評価していたところだった。

筆者の取材に対し、市交通局営繕課は「ポアゾン分布に基づく上限値を採用したので(余裕はあり)問題ない」と主張したことがある。

ポアゾン分布はまれに起きる事故や病気の発症について、特定の期間に起こる確率がどれくらいなのかを示す統計学、確率論上の定理である。今回の件では総繊維濃度1リットルあたり1100本という測定値におけるポアゾン分布の上限値である同1300本を採用した。これはあくまで同1100本の総繊維濃度という測定値に対する統計学的、確率論的な偏差を補正したに過ぎない。その後の時間帯における濃度上昇や、そうした場合を想定した安全率の採用とはまったく無関係である。

結局、検討会では濃度上昇と安全率のいずれも考慮されず、委員が当初主張した「安全側」に立った評価はされなかった。つづく【井部正之】

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