◆そして迎えたラマザーン明け

8月30日、イラン政府は新月を確認し、アラブ諸国より1日遅れて断食月ラマザーン明けを宣言した。テヘラン北部のタジュリーシュ広場では、最終日の断食が明ける10分ほど前から、煮込み料理アーシュや生ジュースを買い求める客が店の前に列を作った。

そして19時53分、すぐそばのイマームザーデ(イマームの霊廟)から日没のアザーン(礼拝呼びかけ)が流れるのを合図に、みな一斉に食べ物や飲み物に口をつけた。この瞬間、30日間に渡る断食月ラマザーンが明けたのだ。

イマームザーデの広い境内では、最後の断食明けをここで過ごすために訪れた大勢の家族連れが、ゴザや絨毯を敷いて食事を広げている。願い事が叶ったときの施し・ナズリーを行なうために、小袋に入れた塩を配る人々がいる。誰もが笑顔で、断食月を終えた喜びを人々と分かち合っている。

私は、彼らとどこまでこの喜びを共有していいのだろう。この1カ月、外国人の私が断食をしていることを知って、多くの人が驚き、称賛してくれたが、お祈りをしていないことを知ると、とても残念がった。断食にお祈りは付き物だからだ。以来、私は私の断食をすればいいと考えるようになった。

ラマザーンを過ごし、私なりに思うことは、人はもっとシンプルに生きられるのではないかということだった。無いものはもちろん、目の前にあるものでも、人は案外、自分の意思で我慢することが出来る。我慢も続ければ習慣になる。そんなふうに自分を戒める機会が毎年訪れるイスラムの社会は、なかなか捨てたものではない。

21時、市街のあちこちで花火が盛大に打ち上げられた。それはまるで、人々の1カ月間の労をねぎらい、祝福しているかのように夜空を明るく照らした。断食をした全てのイラン人が、同じ思いでこの花火を見上げていることだろう。

私も夜道をひとり、晴れがましい気持ちで花火を見上げながら、帰路に就いた。妻がきっとご馳走をつくって待っているはずだ。

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