◆国の理不尽な対応~患者たちの苦しみは続く
今年4月、症状が感覚障害だけだった女性を水俣病と認めるべきかどうか争われた2つの裁判で、最高裁は女性を水俣病と認める画期的な判決を出した。それでも国は「77年基準」を見直す気配がない。

一方で国は未認定患者に対応するため95年の政治決着、09年の特措法と、200万円台の一時金制度を策定。しかし、09年の特措法も理不尽な年齢や地域の線引きがあり、新たな訴訟にも発展している。

これまで認定されたのは約3000人。特措法では6万人が新たに申請したという。不知火海沿岸で暮らしていた人はその数倍にも及び、潜在的な患者はどこまで膨らむかわからない。にもかかわらず、国は未だに一度も実態調査もしていない。一方のチッソは分社化して生き残り、液晶部門などで大きなシェアを誇る。

汚染されたヘドロは水俣湾に埋め立てられた。しかし、埋立地護岸の耐用年数は50年といわれ、すでに約半分の年月が過ぎた。坂本さんはいつかヘドロが漏れ出し、新たな犠牲者が出ないか心配でならないという。

その埋立地の下には、美しかった懐かしい「古里」も封じこめられてしまった。「全てを奪われました。国に、県に、チッソにーー。どんな人でもいのちの重さは一緒ですよね。でも、水俣病患者のいのちは安っぽい命と思われているのでしょうか?」
【栗原佳子 新聞うずみ火】
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