「家族の会」らは8月3日午後、市疾病予防対策課に対し、この健康調査の改善を要請した。「家族の会」に同行し、市との話し合いに同席したところ、さいたま市調査の問題点が浮かび上がった。要請の際、前出・松島さんはこう語った。 

「私の母親はエタニットの下請け・宮原企業という会社でわずか5年間、石綿管を切断する作業をして、中皮腫を発症。2010年に亡くなりました。ところが、さいたま市の調査では検診を受けられるのは工場直近の中央区と大宮区に在住していた人だけ。母は宮原企業でアスベストに曝露したとして労災認定も受けています。母が嫁いだ時の写真には足下にアスベスト粉じんが山と積もっていました。(ずさんな管理の)宮原企業があったのになんで見沼区が検診対象に入ってないんだと憤りを感じました」

被害者支援団体「エタニットによるアスベスト被害を考える会」の斎藤宏代表は市に対し、こう訴えた。

「工場の近くには食肉処理場や小学校もありました。そうした職場に地域外から通っていた方は検診の対象にならない。そういうことをきめ細かく対応しないと解決しない。あなたは該当しないからダメですというのでは困る」 

◆「被害者の切り捨て」と指摘
被害者団体による要請の中で、実際に「対象外」と受診希望者を切り捨てている実態が明らかになった。

被害者団体の1人が「大宮区、中央区以外から問い合わせあります?」と聞くと、市側は「はい、市内で」と認めたのだ。 

ではその人にどんな対応をしたのか。市と被害者団体の間でこんなやり取りがあった。 

被害者団体 「その人には今年はダメですって断ってます?」

さいたま市 「はい」

被害者団体 「今年はダメですからそれで終わりと」

さいたま市 「そうです」

被害者団体 「連絡先くらい聞いてないんですか」

さいたま市 「聞いてないです」

被害者団体 「被害者の切り捨てですよ。(検診は)被害実態の掘り起こしが目的じゃないんですか。こんなことやっている自治体ありますか!」

すでに紹介したように、さいたま市の検診は実施対象を1982年以前に工場直近の2つの区(同市大宮区、中央区)の在住していた者のみに限定した上、定員を100人としぼった。さらに通勤・通学で工場近くに来ていた人も除外した。受診の受け付けも7月20日から8月31日までの1カ月程度と短い。

被害者団体は市に対し、
(1)対象区域を市内全域に拡大せよ
(2)1982年以前に在住していた住民だけでなく、当時市内に通勤・通学していた方も対象とせよ
(3)日本エタニットパイプ大宮工場の被害実態も説明の上で検診を呼びかけよ
(4)定員100人を超えても受け入れよ
──など7項目を要請。改めて詳細な話し合いがしたいと求めた。

市側はこの時初めて要請内容を目にしたため、「環境省と調整するなかで現在の形になった」「検討します」などと答えるにとどまった。

アスベスト曝露の健康調査は、クボタショック翌年の2006年から兵庫県尼崎市、大阪府泉南地域、佐賀県鳥栖市の3カ所で始まった。現在ではさいたま市含め全国8府県24地域に拡大している。

さいたま市の調査は最後発であるにもかかわらず、内容的に先行実施した地域と比べても劣る部分が少なくない。たとえば奈良県では2カ所の工場の被害をおもに想定した調査であるにもかかわらず、県内全域を検診対象としている。ほかの地域でも大阪市や堺市など21地域では県や市町の全域が対象としており、対象区域をしぼっているのはさいたま市など3市だけと少数派だ。
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