◆特別報告者の手続きは日本も承認している

まず「一方的に送られてきた声明だ」というのはおかしな反論だ。なぜなら、特別報告者の手続きは、人権理事会で2007年6月に承認された行動綱領(Code of Conduct)に基づいて行われているからだ。(注2) その時も日本は理事会の理事国としてこの行動綱領を承認しているから、手続きを知らないはずはない。

多くのメディアは「政府は『国連からの一方的な声明だ』と反論している」とだけ報道しているが、本来なら「…と反論しているが、それは正当なのか」ということもきちんと掘り下げて報道すべきなのだ。

また「誤解に基づいている」などという反論も的外れだ。「特別報告者」とは、日本を含む47の人権理事会の理事国によって慎重な手続きで任命された個人資格の独立した専門家だ。国連から特定された役割を与えられており、一私人として行動しているわけではない。

彼らは世界中の候補者の中から公募で選ばれた、国際的レベルの「筋金入りの専門家」だ。そういう専門家に「誤解している」と言い続けることは、筋違いではないか。

◆特別報告者は「王冠に載せる宝石」

また特別報告者は、政府代表から構成される人権理事会という政治的機関を代表するわけではない。彼らの勧告や意見は、日本も批准し実施義務を負う人権条約などで説明される国際人権基準に基づいたものだ。つまり、特別報告者は国際法を代表しているといえる。

そして個人的な意見を述べているのではない。勧告そのものは裁判の判決ではないので、法的拘束力があるわけではないが、勧告のもとになっているのが日本も受け入れた人権条約などで説明される確立した人権基準なのであり、決して無視できるものではない。

また、特別報告者の制度の権限は国連憲章に根拠がある。つまり特別報告者を尊重し協力しないと、国連憲章に反するということになる。2006年に当時のアナン国連事務総長は特別報告者を「国連人権機関の王冠にのせる宝石」と評したが、それくらい重要な役割を担っている。

そのような特別報告者について、日本政府は2016年の人権理事会の理事国選挙の時には、その役割を重視し、「特別報告者との有意義かつ建設的な対話の実現のため,今後もしっかりと協力していく」と宣言し、2019年にも繰り返している。

◆日本政府もこの制度を作ってきた

実際、同じ国連の手続きにある強制失踪に関する作業部会に関しては、拉致問題以来、日本政府は積極的に情報提供して協力している。また2017年6月の人権理事会において、ハンセン病差別撤廃特別報告者が新たに設置されたが、これは日本政府のイニシアチブによるもので、日本政府はこの新たな特別報告者のポストの設立に尽力したのだった。

日本は人権理事会の設立以来、長い期間理事国を務めている。つまり、日本は人権理事会の理事国として、この制度を作ってきた重要な担い手の一つでもあるのだ。

それにも関わらず、近年特別報告者など国連人権専門家から日本への勧告が出るたびに、日本政府は「自分たちは間違っていない。その勧告が誤解に基づいたものだ」とか、「事実誤認だ」「不適切な内容だ」「一方的な声明だ」と言って拒絶し否定するということが続いている。

日本政府は人権外交の重要性を強調し、日本は「国連の主要人権フォーラムや二国間対話を通じて、国際的な人権規範の発展・促進をはじめ、世界の人権状況の改善に貢献してきています」と外務省のホームページで宣言している。(注3)

それは同時に、国際社会では自国の人権問題への対処、国連人権勧告への態度も問われるということだ。国連人権勧告へのこのような態度は、この人権外交の宣言とは相いれないのではないか。(続く)
藤田早苗 エセックス大学ヒューマンライツ・センター

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注1
国連共同書簡の原文
入管法改定案に対する国連共同書簡の全訳

注2
Code of Conduct for Special Procedures Mandate-holders of the Human Rights Council 国連文書A/HRC/RES/5/2

注3
外務省のHP 人権外交のページ

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藤田早苗(ふじた・さなえ)
エセックス大学人権センターフェロー。同大学にて国際人権法修士号、博士号取得。名古屋大学大学院修了。秘密保護法、報道の自由、共謀罪等の問題を国連に情報提供、表現の自由特別報告者日本調査訪問実現に尽力。