鴨緑江辺で沐浴、洗濯する若い兵士たち。皆、痩せている。2017年7月平安北道朔州郡を中国側から撮影石丸次郎

◆なぜ兵役期間を短縮?

金正恩時代になっても、大兵力維持の方針に変化はなかった。その理由のひとつは、軍兵士を「タダで使える労働力」として扱ってきた「動員経済」方式にある。

正確な割合は分からないが、兵員のうち、土木、建設作業専門の人員数は相当な数に上ると見られる。もっぱら建設工事に従事する「8総局」などの大部隊が数多くある。2020年には金正恩氏の肝いりで始まった平壌総合病院建設や水害復旧にも投入された。一般兵士にも規定上給与が出るが微々たるもので意味をなさず、実質的にタダで使える労働力は権力者にとって重宝だ。

それでも飯だけは国が食べさせなければならないが、「軍糧米」を国が十分に確保できず、この20数年、恒常的に兵士に栄養失調が出る有り様が続いている。「食えない軍隊」では犯罪や腐敗が横行し、綱紀の乱れも数多く報告されている。

他方、産業分野では働き盛りの男子の大半が軍に取られることで、慢性的な労働力不足が生じていた。特に深刻なのは農業だ。「どこの協同農場でも耕作を担う分組では、ずっと男がまったく足りず、働き手の大半は女だ」と咸鏡北道(ハムギョンプクド)の農場員は言う。

重要なエネルギー産業であり外貨稼ぎの基幹でもあった炭鉱でも労働力不足は深刻だった。金正恩政権は、通常兵力の弱体化、タダで使える労働力の減少を勘案しても、肥大した人民軍の兵員を、人員不足が深刻な重要産業に振り向ける決断をしたと考えられる。経費削減と生産力の向上の一挙両得を狙ったのではないか。

◆除隊後に若者を待つ苦難とは

今春、大量の除隊軍人が社会復帰することになった。重要な部隊の人員は残し、新兵の補充があったとしても、除隊者の数は兵員の20~30%程度になると推測される。しかし当の除隊軍人たちは、必ずしも社会復帰を喜んでいないという。なぜなのか? 

次回は、現地取材をもとに、新型コロナウイルス事態下でのリクルート(新兵募集)の実態、そして除隊する若者たちを待っている苦難について報告する。(続く)

※アジアプレスでは中国の携帯電話話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

 

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