＜不逞鮮人＞とは誰か～関東大震災下の朝鮮人虐殺を読む（4） 「十五円五十銭」の闇その2…難波大助の見た朝鮮人労働者

被災地には数多くのビラやポスターが出回った。流言蜚語を戒めるものもあり、それほどデマが広く流されていたことを示している。（警視庁『大正大震火災誌』口絵）

◆「兇徒アリ、所々方方ニ於テ放火略奪ヲ逞シウス」のポスター

小説『十五円五十銭』に立ち戻ろう。東京から脱出する列車の中で壺井は昨日の出来事を回想している。

友人と別れ護国寺の方へ向かった壺井は、ラッパを吹きながら行進する一連隊ほどの軍隊と遭遇する。それは「混乱した街に、家家に、私の心臓に戦争気分を撒き散らし」ながら進軍してきた。

ふと見ると辻々に「兇徒アリ、所々方方ニ於テ放火略奪ヲ逞シウス、各員協力シテ警察ヲ援助セヨ。××警察署」のポスターが貼り出されてあった。

「凶徒」とはむろん“不逞鮮人”のことである。街角にはすでにそうした言葉があふれていたことがわかる。（敬称略　続く 5 ）

劉 永昇（りゅう・えいしょう）
「風媒社」編集長。雑誌『追伸』同人。1963年、名古屋市生まれの在日コリアン3世。早稲田大学卒。雑誌編集者、フリー編集者を経て95年に同社へ。98年より現職。著作に『日本を滅ぼす原発大災害』（共著）など。

※ 連載の5回目は1月24日に掲載します。