◆求められる委員会方式と透明性確保

これでは飛散事故を起こした市が好きなように専門家から意見を聞いて、都合の良いリスク評価をすることが可能であり、透明性ゼロである。とても保護者らの理解を得られないだろう。

また市は「データはある」と簡単にリスク評価できるかのような説明をするが、認識が甘すぎるといわざるを得ない。

横浜市生活環境保全条例に基づく作業区画境界における大気測定は週1回で、大半の作業日は測定データが存在しないのが実態だ。また1回の測定(試料採取)は4時間で、残り半分は測定しない。つまり1週間(6日)で作業時間のわずか12分の1しか測定データがない。屋根材の除去では4日間の作業で1回、壁材の波形スレート除去も4日間あるが、やはり1回しか測定していない。

また壁材についても電動工具で波形スレートを切断していたというから石綿飛散は間違いなくあったはずだが、なぜか測定では検出されていない。測定時だけ丁寧に作業する(またはほとんど作業しない)といった手口は以前からあり、作業実態をいかに把握するかが重要だが、どのような対応がされるのか。

今回の石綿飛散は、市の説明に反して大半はデータがないにもかかわらず、そのリスク評価をするという、専門家でも意見が割れる可能性があるやっかいな事案である。しかも子どもの健康にかかわる重大な内容だ。だからこそ専門性が高く、同様事案の経験豊富な第三者の有識者による委員会で徹底的な調査と議論をすることが必要なのだ。そして、その成否には委員会における検討に加えて透明性が鍵となる。どれほど良いリスク評価をしても、透明性がなければ保護者らの理解は得られない。

さらにリスク評価と合わせて重要な市の行政対応の検証も現状位置づけられていない。発注者である市学校整備課による作業計画の確認ミスだけでなく、監督・指導を担う市の環境部局による届け出の確認不足や体制上の問題など、いくつもの市の行政対応の不備が筆者の取材で明らかになっている。今後同じ過ちを繰り返さないためだけでなく、保護者らの理解を得るにも第三者の専門家による行政対応の検証は必須である。

念のため翌23日に同課の寺口達志課長に聞くと、「(10月取材時)現状まだそこまで検討してませんよと申し上げた。積極的に(委員会方式で)やりたいかというと現状でもないが、絶対やる気はないという結論ではなく、その時点での話をさせてもらった」と若干軟化気味の回答だった。

そして、2人目の専門家に相談することを認め、「ご協力いただける専門家の方がいらっしゃれば、おっしゃるような形になるかもしれません」(寺口氏)と委員会方式に含みを持たせた。

行政対応の検証については「まずはご相談できる専門家をなんとか探して動いていますのでそこからです」と明言を避けた。

市は6年生が卒業するまでに結果の「説明会をしたい」というのだが、重要なのはスピードよりも中身だ。市と専門家が密室で実施したリスク評価など、透明性ゼロであり信用に値しない。まして、市は壁材の除去では石綿飛散は一切ないとあり得ない主張しているのだ。

東京都文京区や新潟県佐渡市における過去の取り組み、あるいは現在進行中の兵庫県加古川市における仕組みを手本に透明性を確保した委員会方式により、児童らの健康リスク評価に加えて、行政対応の検証まで実施することが望まれる。

 

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