◆食糧で職場に縛り付ける「カロリー統治」が目的か

連載の1回目で詳述したが、昨年初の企業や公務員の公定のひと月の労賃は、一般労働者が概ね1500~2500ウォン、幹部は4000~8000ウォンだった。そして昨年末に次のように改定された。

公務員 3万5000~5万ウォン
教員  3万8000ウォン~5万ウォン
国営企業の一般労働者 3万5000ウォン程度

金正恩政権による今回の賃上げの意図について、協力者たちから次のような見解が出た。

「引き上げた労賃は、職場で受け取る配給以外の生活費として使えと幹部は説明したが、それは『糧穀販売所』で世帯ごとに買える金額とほぼ同じだ。ざっと言えば、労働者本人の配給で10キロ、『食糧販売所』での購入で10キロ、合わせてひと月20キロ程度の食糧を住民に確保させようということだ」

「労賃を引き上げた理由は、個人が市場や金儲けを通じて食糧を買うのではなく、国家の言う通りに仕事をして金を受け取り、それで食糧を買わせるということだ。でもそんなにうまくいくはずはないだろう」

「とにかく職場への出勤を優先させる制度に変えようとしている。個人の収入はますます減っているので、出勤しないと食べ物を手に入れられなくなるという雰囲気だ」

「商売をほとんどさせてくれない。個人の賃仕事も取り締まる。金がない住民たちは、今回の賃金引き上げによって、職場出勤が必須になると認識している」

「実際には、軍隊などへの支援物資準備などの名目で労賃から差し引かれるに決まっているから、賃上げは役に立たないだろうという意見が多い」

北朝鮮の住民統制の基本は組織生活である。学校や職場、社会団体など、所属する組織を通じて思想・政治学習を受け、集会や支援労働に動員される。国家が決めた配置先に出勤させるために食糧を道具に使う「カロリー統治」の強化こそが、今回の「大幅賃上げ」の目的だと言える。(続く 3へ >>

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

北朝鮮地図 製作アジアプレス

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