◆ドンバス戦線で負傷の元ウクライナ軍狙撃兵

ウクライナ軍では、女性兵士の割合は2割におよぶ。ベロニカ・バトリさん(33)は6年前に陸軍に入隊し、狙撃兵となった。 東部ドンバス地域の親ロシア派勢力と対峙する戦線で戦った。作戦中、仕掛け爆弾で右足に重傷を負い、除隊。今回の侵攻で戦列に加われないのを悔やんだ。

ロシア軍の侵攻後、ウクライナ軍や治安部隊を称える看板が目立つようになった。写真はウクライナ保安局のもので、男女の隊員が並び、「ウクライナをともに守る」とある。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

元ウクライナ軍狙撃兵のベロニカさんは大学卒業後、陸軍に入隊。東部ドンバスでの作戦中、仕掛け爆弾で右足に重傷を負った。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

ベロニカさんは、ロシア軍の侵攻についてこう話す。 「私たちにとって、この戦争は2014年のクリミア占領から続いているのです。さかのぼれば、300年以上も繰り返されてきたロシアによる支配の目論見の延長です。戦わずに降伏すれば、苦しみは百倍以上になって降りかかる」

ウクライナ軍兵士だった頃のベロニカさん。東部ドンバスで戦った。(写真:本人提供)

◆「祖国に尽くした傷」

故郷を守るため、愛する者のために戦闘の最前線に立つ女たちの姿は勇敢で、凛々しく映るだろう。 私はこれまで各地の戦場で銃を手に戦う女性たちを取材してきた。クルド組織のゲリラ兵やシリア北部で過激派組織イスラム国(IS)と戦った部隊。 生死の修羅場をくぐり抜けてきた女性ほど、男の兵士以上に顔つきが険しく、切り裂くような鋭い目だった。 それはたくさんの死を見てきた目であり、人を殺すことをいとわなくなった人間の目でもあった。恐怖の記憶がよみがえり、苦しむ女性も少なくない。

負傷後、ベロニカさんは除隊。軍で同僚だった兵士たちは今回のロシア軍の侵攻であいついで戦死。苦しい心情を吐露した。写真は除隊前のベロニカさん。(写真:本人提供)

足の負傷で松葉杖の生活になったベロニカさんは、公園のベンチに座り、静かに言った。 「祖国に尽くした傷だから、これも名誉」 そして、夕日で赤く染まった空をゆっくりと見上げた。 いつ終わるとも分からない戦争。ウクライナは、ロシア軍の侵攻からまもなく1年を迎えようとしている。

兵士としてドンバス戦線での作戦中に足を負傷し、松葉杖の生活になったベロニカさん。「いまでも後悔はない」という。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

市民防衛隊を取材したウクライナ南部オデーサ。ロシア軍が侵攻した昨年2月は、オデーサでも市内への侵攻を想定して、臨戦態勢だった。地図は、取材時の昨夏時点の状況。(地図作成:アジアプレス)

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2023年1月17日付記事に加筆したものです)

 

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