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【地方都市では、農機具や生活用具の刃物を加工するのにまだまだ手作業の鍛冶屋が多く存在する】
だが、彼は、一度差し出した腕時計を受け取ろうとしなかった。
そのまま、運転手に腕時計を押しつけ、走り去ってしまった。

タクシーの運転手は、困ったように隣に座っている友人に腕時計を手渡した。
その友人も困って、私に「要る?」って顔を向ける。
もちろん私がその時計を受け取る訳などない。
宙に浮いた時計。

運転手は、ダッシュボードを飾る小さな仏像の横に腕時計をそっと置いた。
偶然の同乗者の生真面目すぎる振る舞いは、おそらくビルマ人の元々の気性であろう。
それを目の当たりにして、ちょっと嬉しかった。

というのは、ここしばらく、ビルマの友人から、あるいはビルマに滞在している外国人から、ビルマ人はお金に細かいという話を立て続けに聞かされていたからだ。

確かに、軍事政権下で、生活に先が見えず、毎日を汲々として暮らしている人にとって、日々の生活の糧を稼ぐには厳しすぎる。
政府に反対する言動をすることによって、商売のじゃまをされたり、職を失ったりする恐れがある。
いや、現実には恐れではなく、失業は確実に起こるのだ。
つづく

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