◆どこにでも起こりうる事故 国が関与して原因究明すべき

さらに問い質すと、あいまいな発言をしばらく繰り返した後に「大防法では施設の立ち入り禁止などは定められていない。そこまでの指示は私どもとしては権限の問題もあってなかなか難しい」ともらした。

大防法の規制が問題だというのだが、今回の事例では規制側も事業者も名古屋市である。環境局と交通局と部局は違えど、両者が話し合えば、立ち入り禁止など簡単にできたはずだ。にもかかわらず、それがなされない現状が問題なのだ。

アスベスト調査や分析の専門家である、NPO「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏はこう指摘する。

「閉鎖すべきだったかについては少なくとも専門家に指示を仰ぐべきだった。飛散事故が起きたときにどうすべきか、そもそもリスク管理ができていな い。これは名古屋市だけではなく、日本全国そうです。ですから、かれらがとくに悪いとかひどいとは思わない。マニュアルもないところで知識もない現場側で 判断しろというのは難しい。今回のようなことはどこでも起きうるし再発もする。大防法も強化して対応できるようすべきです。そして今回のような漏えい事故 が起きたときにどう対応するか、危険性がないと確認する手順や立ち入り制限をどうするかといったことについて、国レベルで専門家による委員会をつくってき ちんと今回の事例を検証したうえでマニュアル化する必要がある」

商業ビルなどでのアスベスト除去工事は、今回同様に営業中にすぐ隣で実施していることが少なくない。そうした現場で今回と同様の事故が起きた場合に、利用者らの曝露を減らす対応がまったくされず、同じ失敗が繰り返されるのではないか。

とくに容易に対応が可能なはずの今回のような事例でも、立ち入り禁止措置がされないのだ。まさしく外山氏のいう通り「どこでも起きうるし再発もする」ことが強く懸念される。

飛散事故から約2週間たった12月26日現在でも事故原因は不明のままで、工事再開のめどは立っていない。営繕課の松井氏は「現在なぜ飛散したのか原因究明をやろうとしている。対策を講じて工事を再開したい」と話す。

市環境局も交通局も工事や健康被害について「検証する」と公言する。だが、現在のところ、その体制も不明だ。国への相談などもしていないという。

国レベルでの透明性のある審議により、きちんと事故の検証がされる必要があるのではないか。事故直後のような対応の過ちを繰り返すことは許されない。
~おわり~
【井部正之】
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※初出「名古屋地下鉄駅構内でアスベストが高濃度飛散 明かされぬ曝露実態と行政の不手際」『ダイヤモンド・オンライン』2014年1月6日掲載に加筆修正

 

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