◆“サハリアン”なる言葉も登場

書き換えられたのは地名や史実だけではない。サハラーウィ女性がまとうメラフファという衣装を、モロッコ人入植者も好んでまとうようになった。近年は、西サハラで話されてきたハッサニーアを入植者が話すよう奨励されるようになったと聞く。さらには、占領地に生まれ育ったサハラーウィとモロッコ人を合わせて意味する“サハリアン”なる言葉があることも、現地の若者から知った。サハラーウィの文化が、モロッコ人に取り込まれようとしている。

ブージドゥールの海岸で夕暮れのひと時を楽しむ人々。サハラーウィとモロッコ人の見分けはつかない(2018年筆者撮影)

かつてこの地の主だったサハラーウィの人口比は、モロッコ人の入植が進んだ結果、およそ2割にまで減った。固有の文化までうやむやに同化されつつある。現地に身を置き目を凝らしても、誰がサハラーウィなのかを見分けることはできない。傍目には、占領地のサハラーウィはこのまま“サハリアン”となって消えてしまいそうにも見える。

現地で耳を澄まし続けた。少しずつ、上書きされることのない声が聞こえてきた。(続く)

西サハラ全図。西サハラの地名はすべて、サハラーウィによるアラブ語表記をカタカナにして記した(筆者作成)

 

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